『ごめんなさい。
 咲空良……。

 私の命をあげるから、伊吹を連れて行かないで』




何かに捕らわれたように、
何度も何度も繰り返される言葉。




伊吹を連れて行かないで?


なら……棺に眠る少年の名前が瑠璃垣伊吹?




瑠璃垣伊吹も、咲空良さんたち姉妹みたいに入れ替わってたってこと?






ふいに開けられた扉。



姿を見せたのは、親父の親友。
怜皇さんと、生意気なジュニア。




生意気なジュニアは、オレの方をチラリと見て、
咲空良さんを無言で見つめた。





「伊吹の名は、志穏が今まで通り引き継ぐ。

 瑠璃垣の後継者として志穏自身が決断した。

 告別式は瑠璃垣志穏として出す。
 それが一族の総意だ」



告げられた言葉は、
オレの常識を超える話ばかりで。





「睦樹、咲空良さん。

 少し話がある。
 時間貰っていいか?」





そう言うと三人は部屋を出て行った。



部屋に残されたのは、
アイツとオレと……咲空良さんの妹。


今はっきりわかったのは多分……オレが出逢った、
瑠璃垣伊吹が咲空良さんと怜皇さんの子供で、
オレの弟になる尊夜なんだと言うこと。


証拠なんてないけど、何となくそんな気がした。



アイツは無言で棺の中で横たわるその人を、
じっと涙を流さず見つめていた。




「アナタが生まれて来たから」



そうやって言い放った咲空良さんの妹の言葉。



蔑むように吐き出すように向けられたその言葉を、
アイツは何を思いながら受け止めたんだろう。


いつもこうだったのかも知れない。




何も言い返そうとせずに、
ただ咲空良さんの妹をじっと見つめ続けるアイツ。




「勝手な事言うなよ。

 コイツが生まれなかったらって、
 それでも仮にもコイツの母親に戸籍上でなってるヤツが言う言葉かよ。

 オレや咲空良さんや親父がコイツと過ごせるはずだった、
 その時間の全てを奪ったお前がさ。

 それにアンタに憎まれながら傍に居続けた、
 コイツの気持ちをなんで理解しようとしないんだよ。

 見てわかんねぇか?

 アンタの息子はコイツにとっては紛れもなく兄貴なんだよ。
 オレなんかより、ずっと兄貴なんだよ」