「紀天、そうだな……。
お前も、もうもう高校生。
いい加減に話しておかないといけない時期が過ぎてたんだな」
ハンドルを握りながら親父がゆっくりと口を開いた。
「咲空良、その写真を紀天に」
親父が言うと養母さんは後ろを振り向いて手に持っていた二枚の写真をオレに手渡した。
「お前を産んだ母親は心【しずか】だってことは小さい頃から知ってるよな。
お前を育ててくれた咲空良さんは、
心【しずか】の親友で俺の親友、瑠璃垣怜皇のフィアンセだった」
親父が話し出した言葉に俺は絶句する。
咲空良さんが伊吹の……アイツの親父のフィアンセ?
だったら、なんで咲空良さんが今、親父の隣に居るんだよ。
「紀天、そこに着物姿で映っている二人の女性がいるだろう。
その中に映っているのが葵桜秋【きせき】さん。その人だ」
親父の言葉を聞きながら写真に目を落とすと、
振り袖姿のそっくりな女性が二人、カメラの方を向いて笑っている写真が目に留まる。
はぁ?
どっちがどっちなんだ?
思わず養母さんと、その写真を交互に視界に映す。
「ふふっ。
難しいでしょ。私と葵桜秋は一卵性双生児だったの。
しゃべらなければ、殆どの人が見分けること出来なかったのよ。
右側が私。そして左側に映っているのが、私の双子の妹」
養母さんは、そう言ってまたオレに手渡した写真を手にして正面へと向き直った。
戸籍の名前?
廣瀬葵桜秋【ひろせ きせき】は、妹さんの名前ってことなのか?
あぁー、益々わかんなくなってきた。
廣瀬葵桜秋が双子の妹の名前なんだったら、
養母さんはどうして……。
そこまで考えた時、昔読んだ小説が思い浮かんだ。
『とりかえばや?』
入れ替わった?
いやっ、だけどこの現代で、そんなこと出来るのか?
だけど現に……養母さんは、そんな時間を過ごしてる。
なら……咲空良を名乗ってる人が本当の葵桜秋さんで、
その人は……伊吹の母親?
いやっ、伊吹が尊夜なら……えっ?どういうことなんだ。
「睦樹さん、紀天に話してもいいかしら?
私と玲皇のこと……」
ふいにずっと写真を見つめていた養母さんが、
親父の方を見つめて問いかける。
「咲空良が話せるなら、俺は構わないよ」