そのまま次に携帯で連絡先を表示したのは晃穂の電話番号。


だけどアイツはコールはなるものの電話に出る気配はない。

ったく、なんでお前はこういう時に限って出ないんだよ。
内心、毒づきながらも時間がないオレは「行けなくなった」とメールを送信した。



続いて連絡を取るのは凌雅。



凌雅に連絡が行けば智海ちゃんが動いてくれるかもしれないと踏んだから。



昂燿のオレのジュニアに不幸があった。



それを告げると驚いたような声と共に、
「紀天、お前は大丈夫か?」っと切り返してくる。


凌雅もまた尊夜の存在を知っている数少ない親友の一人だ。


「正直、まだ実感も何もねぇよ。
 ただ今からアイツの家に行こうと思ってる。

 だから晃穂頼むわ」

「わかった。
 晃ちゃんのことは、俺が対応するよ。

 お前も無理すんなよ」

「頼む。んじゃ、オレ行くわ」



ライヴハウスの中から音漏れしてくるSHADEのサウンドが、
今はやけに物悲しく心に響いた。


その時、クラクションが軽く鳴らされて、
親父の車がハザードをつけて停車する。



「紀天、遅くなった」


運転席に親父。
助手席には養母さん。


必然的に後部座席のドアを開けて、
車内に乗り込んだ。


養母さんは助手席に座ったまま、
あの尊夜のアルバムの中に挟まれていた写真と、
オレの知らない写真、養母さんそっくりな人と一緒に着物姿で映っている写真を、
手で持っていた。


動き出した車内はシーンとしている。



オレはシートに持たれたまま、
目を閉じて自身の持つ記憶を整理していく。



幼い頃、瑠璃垣から送られてきたのは
瑠璃垣伊吹と志穏の名前が書きこまれた赤ちゃんの葉書。


伊吹は……昂燿で出逢った可愛げのない可愛いアイツ。


だったら、オレが出会ってない志穏ってヤツは?



マテっ、オレは……アイツの親父には会ったけどアイツの母親には会ったことがない。
それすら聞いたこともなかった。



考えれば考えるほど、
わからなくなったオレは沈黙を破る様に問いかける。


「ずっと気になってたこと聞いていいか?
 尊夜のことを含めて、オレがまだ知らないピースがあるよね。

 オレは養母さんのことを咲空良さんとしてずっと昔から知ってる。
 だけど……養母さんの名前は咲空良さんじゃない。

 養母さんの宛の郵便は全部、葵桜秋【きせき】さん宛のものばかりだ」



そう……漢字が読めるようになっても、
親父にも養母にも聞くことが出来なかったオレの中のパンドラの箱。