「お前さ、家には?」

「帰りません。

 毎年、お盆の時だけは寮を離れないといけないので、
 祖母の家にお世話になってます。

 それがどうかしました?」



こんなに素直に返事が返ってくるとは思わなくて、
オレ自身、言葉が詰まった。



「そうか……なら……」



オレん家、来るか?
弟かも……尊夜かも知れないから?



喉元まで出かかってつっかえて言えない言葉を、
もう一度飲み込む。



その後はまた殆ど言葉を交わすことがないまま
同じ空間で、それぞれ好きなことをして過ごしてた。



オレはドラム練習で傷ついたドラムスティックを掴んで、
クルクルとスティック回しを練習する。


真新しかったドラムスティックは、
今では木が凹んでササクレテ無残な姿になっていた。


あぁ、もう少しでこいつも折れそうだなーなんて
ボロボロになった勲章を見つめる。

スティックが練習量に耐えられずボロボロになるたびに、
こんなにも夢中になってるオレ自身を強く実感した。


そんな傍で、アイツは一人ソファーに身を沈めて
難しいそうな英語で書かれた本を読んでいた。


お盆前まで寮に残ると言っていた伊吹が寮を離れたのはその翌日。


瑠璃垣の家からかかってきた電話の後、
アイツは迎えの車に乗って学院を離れた。


その後も俺の生活は、俺が寮を離れる予定の
晃穂と約束したSHADEのLIVE当日まで変わることはなかった。


明日にLIVEを控えたその夜もオレは晃穂に電話をかける。


荷造りを終えて、ベッドに腰掛けたオレは携帯を取り出して
アイツに電話をするとアイツの声が暫くしてから聴こえた。



「おぅ、居たか。
 明日だな」

「うん。

 遅刻してきたら、
 アンタなんて放っておいて先に入るからね」

「あぁ、それでいいよ。
 っま、遅刻何て電車が遅れねぇ限りしないけどな。

 それこそ、お前こそ、遅刻すんなよ。
 お前の方がいつも約束の時間に遅れてたよなー」



時間にルーズって言うのも言い方が問題かも知れないけど、
晃穂の時間感覚は少しずれてる。

昔から約束時間の前後10分は許容範囲。
それで電車を乗り過ごしたこと多々あり。


いつも約束通りに到着するオレは待ち合わせ場所で待ちぼうけをくらうか、
アイツの家の玄関で、おばさんと会話しながら待ち続ける。


しまいには『晃穂、早くしなさい』なんて
おばさんの雷が落ちて、ようやく追い出されるように出てくる始末。


だからそんなお前に、
遅刻の心配なんかされたくねぇって。