「おっ、晃穂。
叩いてみな」
そう言うと紀天は買ったばかりのスティックを私へと放り投げて
特殊なドアをガチャリと内側から閉めた。
私はと言えば、アイツが投げたスティックを落とすことなくキャッチして
促されるままに座ったドラムセットの椅子。
恐る恐る、適当に握ったスティックをドラムやシンバルの上に
あてていく。
それだけで室内には、シャーン、ドンっと音が響いていく。
「ほらっ、叩きなよ。
アンタの腕前みてやるから」
スティックをアイツの方に突き出して私はドラムの前から立ち退く。
受け取ったアイツは、スティックを握りしめると、
クルクルと腕回しをしてゆっくりと叩き始めた。
静かな部屋に響くアイツのドラムの音色。
リズムは至って基本のはずなんだけど、
ドラムに向かってるアイツは凄く楽しそうで、
ドラムを叩くアイツがちょっとかっこいいかもなんて思っちゃった。
アイツを邪魔しないように、近くの壁にもたれ掛って
携帯カメラでアイツをパシャリと記念撮影。
結構、集中してるみたいでアイツはそんな私のカメラ音なんて
耳にも入ってない感じで一時間ぶっ通しで叩いてた。
部屋を出る頃には、
ちょっと耳がグワングワン言ってる。
「有難うございました」
楽器屋のスタッフさんに見送られて
建物を出た頃には、結構時間が過ぎてた。
その後は、遅くなった昼ご飯。
近くの牛丼のチェーン店へ入店。
ドラムを叩いて体力を使ったらしいアイツは
牛丼の特盛をペロリと完食。
その後はアクション映画を見て、
ちょっとプラプラと建物の中を歩く。
そして18時前。
アイツはおもむろに携帯を取り出すと、
ゆっくりと何かを確認して閉じた。
「晃穂、お前さ今日の門限は?」
「別に確認してないけど」
「んじゃ」
そう言って電話を掛けたのは多分私の自宅。
『おばさん、オレが責任もって送るんで』
そんな会話を耳に止めながらアイツは電話を片づけた。
「おばさんの許可貰ったから後一か所付き合って」
「付き合うって何処?」
「ライブハウス」