「晃穂、行きたいとこある?」

「行きたいとこ?
 別に」



行きたいとこ何て何処だっていいよ。
紀天と過ごせれば。



「そっか。
 んじゃ、俺が行きたいところにしていい?」

「別に好きにすれば。
 んで、アンタ何処に行きたいの?」

「あぁ、楽器屋」




そうやって切り返された言葉は、
アイツにはあまりにも似合わない場所で。



楽器屋……マジ?


私的反応は、スポーツ専門店にバッシュを買いに行くとか
そう言うのを軽く想像してた。



思わず熱でもあるのかとアイツの額に手を当てる。



「あれ?熱ない……」



そうやって小さく呟いた私に、紀天は苦笑いして、
お返しと言わんばかりに私の額に中指でのデコピン一発。



「もう、最低ー」


ヒリヒリする額を抑えながら、
叫んで睨みつける私。



「ほらっ、行くぞ。
 楽器屋」


そう言うと紀天は私の手首を掴みとって
人混みを誘導するように、目当てのお店まで連れて行った。


未知の領域。


自動ドアを潜った途端に、フロアーに所狭しと並べられている、
ピアノや電子オルガン。


紀天はフロアー案内の看板を見つけて何かを確認すると、
地下へと降りていく。


紀天に触れられて踏み込んだその場所は、
なんか沢山の楽器が並んでた。


あっ、あれギターだよね。


アコースティックギターだけは、
何回か町内会のイベントで見たことあるよ。


そんなことを思いながらキョロキョロしてる私。


私の手を引くアイツはお目当ての場所へと向かっているみたいだった。



何?


アイツの足がピタリと止まった場所は、
叩けば音が出るドラムが並んでる場所。



ズラズラと並べられてるドラムのアイテム。