電話を手に掴み取ると、通話ボタンを押す。




「もしもし」

「おっ、出た出た。
 昂燿はどうよ?紀天」

「ボチボチかな。
 ようやく慣れ始めた頃だよ」

「ようやくって、お前にしては時間かかりすぎじゃねぇ?」

「そうか?」

「そうだよ。
 自覚ねぇところもお前らしいけどさ。

 んでさ、紀天。
 お前、晃穂ちゃんとどうなんよ?

 そっち行って一回くらい電話したのかよ?」



凌雅の言葉に今も返せないでいた
アイツからのメールの返信を思い出す。 



「そろそろ、顔見せてやれよ。

 強がってても、晃穂ちゃんも女だよ。
 智海と結愛の板挟みになってる俺の身も案じろって。

 伝えたからな。
 早めに、晃穂ちゃんに連絡してやれよ」



用件だけ手早く言い終えると途切れた電話。


そのままオレは、寮の部屋を出た。



伊吹の部屋をノックする。



「はい」

「就寝前に悪い。
 開けるぞ」


そう言って開けたドアの向こう側。


殺風景な部屋の机の前で、ペンを動かし続ける伊吹。


近づいて行って、そいつのテキストを覗きこむ。


「おっ、懐かしい問題。
 行き詰ってんのか?」


そう言いながら、伊吹のペンが止まっている
問題を紐解く方法をゆっくりと伝えていく。



順に解き方を説明していくうちに、
アイツの表情は明るくなっていくのが隣で感じ取れた。


「おっ、出来た出来た。
 お前、やれば出来んじゃん」


褒めるようにそれを言いながら、
アイツのサラサラの黒髪をワシャワシャと撫でつける。


「何してんだよ。
 んで、用事……何?」

「あっ、そうそう。

 週末、俺、外泊するから。
 そんだけ。
 んじゃ」


それだけ伝えると、オレは竣祐さんの部屋を訪ねた。

オレ自身のデューティーにもその旨を伝えると、
彼には、すでに情報が筒抜けだったようで
オレの帰省を了承すると共に当日、竣祐さんも帰省するらしく帰りは車で
悧羅校まで送ってくれると言う申し出まで頂けた。



そのまま、メイトロンへと週末帰省の届け出を提出して、
部屋に戻るとまた着信があったことを告げるランプが点滅していた。


液晶画面に映し出すのは咲空良さんの名前。