「あっ、伊吹。
悪いけど、今日の朝食。
コーヒーで頼むわ。
授業前に、スカっと目を覚ましたいからさ」
戸惑った表情でオレを見る伊吹。
そうそう、アイツのこう言う年相応の表情って奴をオレが引き出してやって、
伊吹の心をサポートしてやることが出来たら
それも……いんじゃねぇ?
自己満足かもしれないけど、
伊吹の為に教えてやれることっていったら近くに居て、
アイツが忘れたアイツ自身を引きづり出してやる。
「伊吹、返事は?
オレは何?」
「あっ……はい。
デューティー、紀天」
「そうそう。紀天なっ。
まっ、デューティには違いないけどそれ、余計だから。
二人の時は、紀天だけでいい。
まっ、お兄様でもいいけどな」
そう言いながら笑うオレを睨みつけながら、
伊吹は、初めてオレの名を呼び捨てした。
「では、あっ……紀天。
朝食はコーヒーをご用意してお待ちしています。
ミルクと砂糖はたっぷりで」
部屋を立ち去る間際、悪戯を思いついたガキのように
舌をチラっと出して去っていくアイツ。
「えっ?
おいっ、伊吹。
ミルクと砂糖は適量の各一でいいからなー」
制服に着替えるまで出られない昂燿の規則にのっとって
寮の部屋から出ることが出来ないオレは扉を開けて、
伊吹の背中に叫んだ。
オレの方を振り向くこともなく、
ただ右手だけを上にあげて、ひらひらと振る。
了解って事か?
まだ解釈には悩むが、それでも少し伊吹との関係が
前進し始めた気がして、オレは嬉しかった。
学校生活にゆとりが出てきた頃、
ドラムの練習を終えて部屋に戻ったオレの携帯が着信を告げる。
画面に表示されていたのは、凌雅。