ギターの音、ベースの音。
そしてドラムの音。

リズムにあわせて両足がそのリズムを自然と捉えていく。


手がウズウズして、宙を叩く。


そんな感覚が楽しくて。



一週間後、伊吹が学院に帰ってきた後も
オレは放課後の和泉先輩のドラムレッスンをサボることはなかった。


何時もと同じ日常のはずなのに、ほんの僅かな何かが変わるだけで、
こんなにも心の持ち方が変わっていくのだと思い知った。


そうやって夢中に慣れるものに集中していける時間は、
オレ自身の心をも少し軽くさせてくれた。




「おはようございます。
 デューティー、紀天。

 お目覚めの時間です」



オレの部屋のカーテンを開け放った後、
ベッドサイドでゆっくりと声をかけたアイツ。


声を聞いてゆっくりと体をベッドの上で起こす。



ベッドサイドの硝子テーブルには和泉先輩に教えて貰った、
ドラム譜の読み方を綴った楽譜がまとめられていた。





「あっ、片してくれたんだ。
 有難う。

 支度、宜しく。
 時間になったら竣祐さん、起こしてくるから」


先に紡いだオレに、伊吹は言葉を詰まらせるように口を閉ざした。


いつもいつも、毎朝・毎朝機械的な形式だけな会話にさせるかよ。

アイツにあぁ言う付き合い方をさせてきたのはオレ自身だって、
離れた一週間で気づかされた。



機械的になりやすい上下関係。


だけど、そんなの本物の絆とは言えない。



昂燿だから、悧羅校と違うから何て最初から、
オレにはわかりきってたことだ。


だけどオレにはオレのやり方がある。



昂燿の風習で知らないことを
ジュニアに教えて貰って何処が悪い?



自分の実力が足りない部分は、竣祐さんでも、
伊吹でも周囲の詳しいヤツに聞けばいい。


飾る必要も、背伸びする必要もないんだ。



弟かも知れない、尊夜かも知れない奴だからって
余分な力を入れることもないって、今更自覚した。