どれだけ必死に泳いでも、
その泳ぎはタイムに反映されことはなかった。
ついには力を使い切った私は、それ以上プールに入り続けることも出来なくなって
プールサイドに何とか辿りつくと、水の中から必死に体をあげて、
へなへなと座り込んだ。
「絹谷」
慌てて近づいてくる部長の判断で、
その日の私の練習は中断。
そのまま部活を早退して、重だるい体を引きずるように
帰宅する私。
帰宅している電車の中、宝珠さまにメールをする。
生徒総会の後、いつも私の部活終了を待って
家の車で自宅まで送ってくれる私のデューティー。
『体調が優れないのでお先に失礼します』
帰宅までの電車の道程がものすごく長い時間感じられる。
ようやく最寄り駅に辿りついた頃には、
一時間少しが経過していた。
駅を出て自宅まで歩こうとした私に
クラクションの後、道路側から声がかかる。
「晃穂ちゃん、良かったら乗ってかない?」
そうやって声をかけるのは、
紀天の育てのお母さん・咲空良おばさん。
ハンドルを握っているのは、
紀天のお父さん、睦樹おじさん。
睦樹おじさんは車を道路サイドにハザードを出して寄せると
運転席からすぐに降りて来て、乗りやすいように後部座席のドアを開けた。
「どうぞ、晃穂ちゃん」
「あっ、有難うございます。
お邪魔します」
そう言って、車の中に乗り込む私。
「あぁ、睦樹さんやっぱり紀天ともこうやって過ごしたかったわね。
なんであの子、遠い学校に行っちゃったのかしら?」
えっ?
紀天の転校理由って、
咲空良おばさんも知らないの?
「咲空良、紀天には紀天がやりたい道があるから」
「そうねー。
心【しずか】がそうだったもの」
そう言って、咲空良おばさんは紀天の亡くなった本当のお母さんの名前を紡いだ。
車は駅からすぐに自宅前へと到着する。
「ねぇ、晃穂ちゃん。
今から、少しこっちに来ない?
晃穂ちゃんのご両親には私が挨拶するから」
突然の申し出に私はキョトンとするばかり。
「晃穂ちゃんがいいなら寄って行ってよ。
紀天がいなくて何時も二人だけだからね。
たまには賑やかな食事が出来たらいいなって」
そう言って、私を促すようにまた後部座席のドアを開ける睦樹おじさん。
「さっ、決まり。
久しぶりに、ご飯頑張って作らなきゃ。
睦樹、晃穂ちゃんのご家族のフォロー宜しくね」
そう言うと咲空良おばさんは自宅の方へ。