「晃穂……」

「ごめん、智海。
 トイレ行ってくる」


口早に告げると慌てて教室を飛び出して
利用者の少ない女子トイレに駆け込むと
鍵をかけて思いっきり泣いた。





声をあげてなくのも
誰もいないところじゃないと出来ない。


そして……そんな場所で一人で泣いてる時も
気が付いたら、
何時の間にかアイツは傍に居てくれた。


アイツの声が届く壁一枚の向こう側。


その場所でじっと、私が扉を自分で開けて
出てくるのを待っててくれた。


そんなアイツの優しさも今は感じられない。


泣くだけ泣き続けて、トイレのドアを開けると
洗面の前の鏡で真っ赤になった自分の目を見つめる。




……やっちゃった……。




水を浸したミニタオルで真っ赤になった目を
アイシングしながら、トイレのドアに持たれる。


ふいにブルブルとポケットで震える携帯。





To:晃穂


一限目、私と同じ「生物」においで。

講師には体調が悪くて少し休みに行ってますって
伝えたから。

落ち着いたら戻ってくるのよ


智海






智海の優しさが乾いた心に染み渡る。



多少は見られる姿に戻れた後、
人気の少ない女子トイレを離れて
私は一限目に選択したことになった
「生物教室」へと歩みを進めた。



遅刻して教室に入った私に講師は、智海のフォローよろしく
気遣うように声をかけて『無理をしないように』と一言告げて、
授業を続けた。




放課後、その日もいつものように
水泳部の練習に向かう。





その日は呼吸制限をつけた訓練の後、
耐乳酸訓練とも言える、専門種目で後先考えずに
自分の今を出し切る練習。