「晃穂……」
「ごめん、智海。
トイレ行ってくる」
口早に告げると慌てて教室を飛び出して
利用者の少ない女子トイレに駆け込むと
鍵をかけて思いっきり泣いた。
声をあげてなくのも
誰もいないところじゃないと出来ない。
そして……そんな場所で一人で泣いてる時も
気が付いたら、
何時の間にかアイツは傍に居てくれた。
アイツの声が届く壁一枚の向こう側。
その場所でじっと、私が扉を自分で開けて
出てくるのを待っててくれた。
そんなアイツの優しさも今は感じられない。
泣くだけ泣き続けて、トイレのドアを開けると
洗面の前の鏡で真っ赤になった自分の目を見つめる。
……やっちゃった……。
水を浸したミニタオルで真っ赤になった目を
アイシングしながら、トイレのドアに持たれる。
ふいにブルブルとポケットで震える携帯。
*
To:晃穂
一限目、私と同じ「生物」においで。
講師には体調が悪くて少し休みに行ってますって
伝えたから。
落ち着いたら戻ってくるのよ
智海
*
智海の優しさが乾いた心に染み渡る。
多少は見られる姿に戻れた後、
人気の少ない女子トイレを離れて
私は一限目に選択したことになった
「生物教室」へと歩みを進めた。
遅刻して教室に入った私に講師は、智海のフォローよろしく
気遣うように声をかけて『無理をしないように』と一言告げて、
授業を続けた。
放課後、その日もいつものように
水泳部の練習に向かう。
その日は呼吸制限をつけた訓練の後、
耐乳酸訓練とも言える、専門種目で後先考えずに
自分の今を出し切る練習。