「晃穂、早くお風呂に入っちゃいなさい」
階下から母親の声が聞こえて、
私は机の上の問題集をパタリと閉じた。
学校から帰宅して、晩御飯の後机に向かって
すでに30分以上が過ぎてた。
閉じられた問題集も、
開いているだけで一向に進む気配がない。
脳裏に浮かぶのは、紀天の事だけ。
これってかなり重症。
「はぁーい」
気持ちを切り替える意味でも私は下に声を届けて、
入浴準備を整えてお風呂場へ。
一日の部活動で酷使した体の自宅ケア。
疲れた筋肉を解して、
明日の練習にも耐えられるように
メンテナンスする時間。
ゆったりとお風呂に浸かりながらも、
私の脳内は、紀天の事ばかり。
合同学院祭も結局、
紀天とゆっくり話すことなんて出来なかった。
電話をする?
電話をしない?
たったそれだけで、携帯電話を握りしめながら
悶々としてしまう時間。
素直に甘えられたら可愛いのに、
どうして甘えられないんだろう?
甘えるなんて弱みを見せてるみたいで嫌だもの。
だけど……それでも体と心は多分正直なんだ。
どれだけ強がって気にしていないように見せても、
紀天が昂燿に行ってしまってから、紀天と連絡がとれなくなってから、
私の水泳の方の成績はさがってる。
タイムが伸びない。
スポーツ推薦で入学を許された私にとっては、
成果がだせないのは致命的なわけで。
それを少しでも脱却したくて、
朝練の時間も増やして、放課後の練習時間も増やした。
練習時間も今まで以上に詰め込んだのに、
その練習成果が実る気配はない。
それてどころか、遅れ始めたタイムは
以前のタイムを取り戻すことも諦めてしまったように
遅くなっていく。