「晃穂、早くしないと遅れるわよ」


家の中に響く母さんの声。


「はぁーい」

慌てて鞄を肩に引っ掛けて一階へと駆け下りる。



4月。
今日は高等部になっての最初の登校日になる入学式。


本当は凄く凄く待ち遠しかった当日なのに、
アイツが居ないその日は凄く寂しくて、
起きてからもなかなかエンジンがかからなかった。


アイツが昂燿に行った夜、一晩泣き明かした。

どれだけ悲しくても、寂しくても、
アイツが隣に居ない時間は無情にも過ぎていく。



「晃穂も今日から高校生ね。

 ほらっ、リボンの端っこもしっかりと形造って登校しなきゃね。
 お母さんも後から追いかけるから」


初等部・中等部の可愛らしい感じの制服を卒業して、
高等部からは学院カラーである菫色の布地はそのままに
少しドレッシーな装いを醸し出す。

お母さんは、そんな制服のリボンの形を整えながら私に話かけるものの、
鏡に映ったその制服の、あまりの似合わなさに自分自身の気が滅入ってる。


もっと制服らしい制服だったら……良かったのに……。



学院関係者であり有名なデサイナーの一人。
綾音姫龍【あやね きりゅう】様が手掛けられた制服。


着たくても簡単に着れる制服じゃないのは知ってるんだけどな。

それでも……ブラウスに、アンバランスのスカート丈のワンピース。
首元に飾られる、大きめのリボン。
リボンの中央に飾られる校章ボタン。

そしてとどめの、パフスリーブの袖になったボレロに袖を通した出で立ち。


「うん。

じゃ、先に行くね。
行ってきます」


玄関の扉をガチャリと開くと顔を出したのは声をかけて来たのは近所のおばさん。


「おはよう、晃穂ちゃん。
 晃穂ちゃんも、高校生だね。

 今日からは新たな装いだね。
 今着てるのが高等部からの制服かい?
 
 そういやっ、まだ見ないね。
 廣瀬さん家の紀天くんとは一緒に行かないのかい?」




悪気はないと思うの。


悪気はないと思うんだけど、
その一言テンションさがるから聞きたくなかった。




「あっ、紀天は学院転校で今日からは別の学校」



私がそう答えると井戸端会議が大好きな近所のおばさんたちの輪が広がっていく。