「……落ち着いた?」



不規則な嗚咽が規則正しい呼吸に移り変わった頃を見計らって、俺は腕の中の人物に声を掛けた。

未だうつむいたままの篠岡さんは、それでもこくりと小さく頷く。

そしてしがみついていた俺の胸から手を離し、ゆっくりと距離をとった。

広がった距離に少しだけ残念さを覚えて、それから安堵する。



「せん、せ、すみません……」

「いや、もう謝らなくていいから。それより……大丈夫?」



下から覗き込むようにして篠岡さんの顔をうかがうと、彼女の目元は赤く腫れ、まつげはまだしっとりと濡れている。

いくらなんでも、こんな明らかな泣き顔のまま、室外に放り出すわけにはいかないだろう。

──涙でうるんだ瞳にまた改めてどきりとしたなんて、そんな不謹慎なことは、口が裂けても言えない。