──衝動だった。

自分のすきな女の子が、目の前で泣く姿に……堪らなくなって、その身体を引き寄せた。

引き寄せて、思いきり、抱きしめた。

彼女が驚いて、息を飲むのがわかる。



「せんっ、せ……っ」

「……どうして、謝るの」

「、え?」

「篠岡さんが、謝る必要なんて、どこにもない」



きっぱりとそう言って、俺は抱きしめる腕の力を強くした。

そして篠岡さんのやわらかな髪を撫でながら、耳元で呟く。



「……こらえなくていい。思いきり、泣いていいんだよ」

「──ッ、」



その、瞬間。

それまで必死に声を抑えようとしていた彼女から、咳を切ったように、嗚咽が大きくなった。

触れている箇所から、彼女の震えが、伝わってくる。



「う、ふぇ……っわた、私、ほんとに、せんぱ、のことが……っ」

「うん」

「ふぇ、ひっく、……す、き、だった、の……っ」

「……うん、」



ぎゅっと強く、だけどやさしく、彼女の小さな身体を抱きしめる。

自分の中の、黒く歪んだ感情を隠して。今はただ、早く腕の中の女の子が笑ってくれるようにと、祈りながら。