「……あれ、泣いちゃった? 困ったな、そういうつもりはなかったんだけど」

「……ッ、」

「ああでも、サチちゃんの泣き顔って──……」



──結構そそるかも。

そう言った直後、先輩の左手が私の肩を掴んで、もう片方の手は私の後頭部を引き寄せた。

重なった唇に、私はまた、目を見開くことしかできなくて。



「……や……っ!」



少し遅れて、渾身の力で、目の前の身体を突き飛ばした。

両手を突き出した状態のまま、肩で息をする私に対し、先輩は涼しい表情で頭をかいている。



「あらら、拒否られちゃった」

「……ッ先輩、私は」

「うんわかった。もうなんにもしません」



おどけるように両手を上げて、先輩はベンチから立ち上がった。

そして私の前を通り過ぎる瞬間、ぽん、と軽く、頭に手を置いて。