沙知ちゃん。イコール、篠岡さんのことだ。

自分のわかりやすさにうんざりしながらも、自然と、聞き耳をたててしまう。

んー?、と、鎌田が言葉を返した。



「サチちゃん? いい子だよ~。なんていうかもう、めちゃくちゃ純粋でさ」



その鎌田のせりふに、俺は知らず知らず自分のこぶしを握りしめていた。

……よかったね、篠岡さん。だいすきな先輩が、君のこといい子だって言ってるよ。

腹の中のどす黒い感情を必死で抑えこむ俺の耳に、相変わらず楽しげな声たちが届く。



「あ~、俺らにもあったなぁ、あんな純粋無垢な頃が」

「いや、おまえの場合最初っから汚れまくりだったろ」



あはははは、とそこで複数人の笑いが起きた。

そして次に聞こえてきたせりふに、今度は俺は、自分の耳を疑ってしまう。



「けどさぁ、マジでどーすんの、あんなわかりやすく好かれちゃって。おまえ、他に彼女たちいんじゃん」