過去にこのクラスでそんなやり取りがされていたことも、おそらく彼女は知らないのだろう。



「それじゃあ、教科書の86ページから──」



言いながら、再度生徒たちの方を振り返ると。

ふと、なぜかニンマリ笑みを浮かべてこちらを見る、雛瀬さんと目が合う。

その表情の意図がわからなくて、つい、眉間にシワが寄った。


……そういや必死に動揺を隠そうとしていたあのときも、雛瀬さんがやけにニヤニヤしながらこっち見てたな。

くそ、他の先生たちの前では猫かぶってんだろうけど……俺は“美人な優等生”で通ってる君の、腹黒い本性を知ってるんだからな!

……と、いう念を込めた視線をとりあえず俺は彼女に送っておいたが、相変わらず彼女の余裕ぶっこいた笑みは崩れない。……コノヤロ……。



「……なんかみゃーくんと雛瀬さん、ガン飛ばし合ってる?」

「こわ……っ!」

「ハッ! 私の白いおはぎが!」

「あ、沙知ちゃんおはよーマイナス5点ー」

「え゙?!」

「ちょ、白いおはぎってただのもち米じゃないの?」