「かまわん、お忍びだからな! 寝るとこさえあれば何でもいい」

 どうやらフェランとライナスも追いついてきたようだ。しかし、相変わらず全く忍べていないのはどうにかならないのだろうか。考えの足りない貴族のお坊ちゃんズと、宿の主たちが受け取ってくれればいいのだが。

「まあまあ、若様。では、当宿で一番のお部屋にどうぞ。お食事はお部屋にお持ちしますからね!」

 上質のブーツを履いた足音が二人分、それより少し軽い足音一人分が部屋の前を通り過ぎて、奥の上質の部屋へと向かっていく。

「泣き落としすれば通してもらえると思ったんですけどねぇ」

 アイラはイヴェリンがテーブルに広げた地図を見る。

「最初から楽々入れるとは思わないさ。まあ、こうなったら不法侵入するとしようか。幸いこの村に一つ、集合場所があるようだしな」

 イヴェリンの手が、地図上の一点を指した。

「気は進みませんが、不法侵入しかなさそうですねぇ。とりあえず、フェラン様とライナス様に声をかけておきましょう」

 アイラの手が、知らず知らず父からもらったお守りへと伸びる。これから先の未来を予想していたわけでもないのだけれど。