目に付いた宿の前で降ろしてもらい、ケヴィンの馬車が消え去ったところで、ようやくイヴェリンはハンカチを目から離す。

「うわー、ものすごい目が腫れてますよ! お水もらって冷やさなきゃ。イヴェリン様って意外に演技派だったんですねぇ」

 若干やりすぎていた気がしなくもないが、ケヴィンには通じていたのだからよしとしよう。彼の同情をひくこともできたわけだし。

「当たり前だろう。本気で泣いたからな」

 イヴェリンは胸を張る。

「頭の中で夫を三十回ほど戦死させてみた。うむ、なかなかつらいものがあるな。戦死するなら夫より先にしたいものだ」
「……それはどうなんでしょうねぇ」

 やっぱりエリーシャの後宮に仕えているだけあって、イヴェリンも少しずれているのかもしれない。

 このまま行くと普通の生活には戻れないのではないだろうかと、アイラはちょっぴり心配になったのだった。

 アイラたちが部屋に入ってしばらくすると、帳場の方から元気のいい声が聞こえてくる。