「圭吾くんこそ、その辺はどうなの?」

紗香の大好きな恋愛話だっていうのに、まだ電話から戻ってこない。圭吾くんと会う前に帰っちゃっても知らないんだから。


「好きな人は……どうかな。でも恋愛は暫くしてないから感覚を忘れちゃってるんだよね」

「そ、そうなの?」

「昔、彼女っていうか……付き合う寸前までいった女の子はいたんだけどね」と圭吾くんは複雑そうな顔をした。


あまり詳しく聞いちゃいけない気がするけど……
そこまで言われたらそれなりに気になる。


「……今その子とは……」

「遠い街に引っ越しちゃった。けっこう急な話で俺も当時はビックリしたんだけど、あとから聞いたら裏で他の女子に嫌がらせされてたって」

「な、なんで?」

「俺と帰ったり遊びにいってることが許せない女子がいたみたい。その子、俺の前ではいつも笑ってたけど本当は毎日ツラくて泣いてたって」

また圭吾くんは自分が悪いって顔をする。


「俺はそんなの全然知らずに練習ばっかりで気づいてあげられなかった。だから両立できないのに求めちゃいけないなって思って」

「そんなこと……」

「だってその子が転校した日も俺は普通に部活に出て泳いで、次の大会の準備までしてた。大切なものをふたつ作るだけの余裕が俺にはないって知ったんだよ」


みんな圭吾くんのことを天才だっていう。

なんでもできて、なんでも上手くこなして完璧な人だって。

だけどその天才もなにもない場所から生まれたってことを、私たちは忘れている。