好きなものに全力で突き進む人たち。臆病で下ばかり向いてる私とは大違い。
――と、その時。私たちの前にふたり組の人影が。
「あの、森谷圭吾さんですよね?」
白いワンピースとピンクのサンダルを履いて、髪の毛は男子受けが良さそうなゆるふわ巻き。
大人っぽいし、口調も丁寧だから私の予想では大学生か専門学生といったところ。
「はい。そうですよ」
関東大会の時もすごかったけど、こうして有名だとすぐに声をかけられちゃうんだなあ。
「写真一緒に撮ってもらってもいいですか?」
そう言ってカバンからこれまたピンクのスマホケースを出す。
「すいません。写真はいつも断るようにしてて」
「えー。そうなんですか?」
私は空気のように存在感を消していた。
「じゃあ、握手だけならいいですか?」
「はい。もちろん」
写メを断られた女の子たちはちょっと残念そうにしてたけど、圭吾くんが右手を差し出すと頬を赤らめてぎゅっとしていた。
「やばーい!」「手触っちゃった!」と去り際でも跳ねるように喜んでいる。
「ってか一緒にいた子、もしかして彼女かな?」
「えー。そんなに可愛くなかったし友達じゃないの」
ものすっごく聞こえているけど、私は気にしないふりをして残っていたジュースを全部飲み干した。