「なんか須賀と言い争ってなかった?」
教室に着いて自分の席に座ると紗香がパックのコーヒー牛乳を飲みながら近づいてきた。
そんな言い争っていた須賀は珍しく席に着かずに男友達となにやらまたバカな話で盛り上がっている。
「じ、実はさ……」
紗香に昨日のことを耳打ちすると「えー!」と想像どおりの反応をしたから私は「しーー」と人差し指を口に当てた。
「圭吾くんとキスなんて羨ましい」
「だからキスじゃないし。事故なの」
とはいえ、唇が触れあってしまったのは事実で。
顔が暑いのを気温のせいにしたいのに、なんで今日に限って快適なんだろう。
「でも圭吾くんってあんなにモテるのに、そういえば彼女の噂とか聞いたことないなあ」
紗香がズズッとストローを鳴らしてコーヒー牛乳を飲み干した。
「……練習とかが忙しいからじゃないの」
ひとの恋愛事情なんて知らないけど。
「まあ、あんな人気者の彼女になった人は大変だろうね。ファンからかなり妬まれそうだし」
すごく愛想もよくて女の子の扱い方にも慣れているって勝手に思ってたけど、実はそうでもないのかも。
だってあの時の圭吾くん……かなり慌てていたっていうか、余裕がなかった。
もっと笑い飛ばしてくれたら私も恥ずかしがったりしなかったのに。耳を真っ赤にするからそれが自然と移ってしまった。