「そっか。俺はちょっと長谷川さんに呼ばれてさ」

「長谷川先生?」

「うん。ここだけの話、あの人と俺いとこなんだよね」

「ええ?」

「人前では長谷川さんって呼んでるけど、普通に俺の叔父さん」

なんでも圭吾くんのお母さんの弟が長谷川先生らしい。

血縁関係があるって信じられないほど似てないっていうか、予想外すぎてビックリした。


「それで叔父さん中にいた?」

「あー……。いたけど機嫌わるそうだったよ」

「それはイヤだなあ……」


圭吾くんが着ているのは〝有由高水泳部〟と書かれたジャージで色は赤。

うちの水泳部のジャージは青だから、まるで誰かが仕組んだかのように非対称な色だ。


「すずちゃんは今から帰るの?」

「え?う、うん。まあ」

須賀から日誌を受け取ったらね。


「そっか。残念。一緒に帰れたらよかったのに」

……やっぱり圭吾くんって分からない人だな。

私にそんなことを言わなくても女子には困ってないだろうに。


「ところですずちゃんさ……」

その時。ちょうど圭吾くんの後ろをランニングする陸上部の集団が通った。

学校の敷地内は広いし、一周すれば3キロぐらいありそうだけど……ってそうじゃなくて!


「あ、すいませーん」と、通りすぎる直前にひとりの生徒の体が圭吾くんに当たってしまった。

そして前のめりになった圭吾くんと私は……。

まるで漫画のようにキスをした。


「ご、ごめん!」

先に謝ったのは圭吾くんのほう。

私はなにが起きたのか理解できなくて立ち尽くすだけ。


……今唇が当たった?

圭吾くんの顔を見ると女子の扱いには慣れてるはずなのに、その耳は真っ赤で、どんどん私も状況を把握してきた。


「私こそ……ごめんなさい」

なにに謝ったのかは分からない。

心臓がバクバクとうるさい中、ふと視線を感じて振り返ると、そこには日誌を持った須賀が立っていた。