――バシャッバシャッ。
中庭を抜けて水泳部がある建物に近づくと、すでに中から水の音がした。
今タイミングよく水泳部のだれかが外に出てこないかな……。そしたら日誌を須賀に渡すように頼めるのに。
渋々私は玄関の扉を開けて中に入った。
「こらー。大会に出る実力もないヤツが休憩なんてするな!」
なにやら顧問の長谷川先生の怒鳴り声が聞こえてくる。
巻き込まれないように須賀を見つけてみたけれど、プールで泳いでいるのは別の人。
……もしかしてトレーニングルームで自主練してるとか?
だとしたら最悪だ。長谷川先生の横を通りすぎないとあの場所へは行けない。
「ええ?須賀先輩はやらなくていいですって。関東大会もあるんだし気にせず練習してください」
そんな声が聞こえてきて、私はプールサイドの端を見た。
そこでは1年生がデッキブラシで床をキレイに掃除していて、バケツに汲んだプールの水を排水溝へと流していた。
「いや、そもそも後輩が掃除当番をするってルールがよく理解できないっていうか。みんなが使うんだからみんなで掃除やればいいじゃん」
「いや、でも……」
須賀は1年生からデッキブラシを取り上げて「早く終わればその分いっぱい練習できるだろ」と笑いながら床を擦りはじめた。
土曜日に大切な大会があるのになにを考えてるんだか。
でも、ああいう上下関係がないところが須賀らしい。
須賀=水泳になってるけど、それ以外にも好かれる魅力が須賀にはあるんだと思う。じゃなきゃ、後輩に慕われるわけがない。