須賀はそのあと本当に先生らしくピピッとホイッスルを鳴らして、子どもに準備運動とプールに入る前の水浴びを順序よく指示していた。
……まさか須賀が休日にこんなことをしてるなんて知らなかった。
私はプールサイドの端にある保護者の観覧席にとりあえず座った。
学校の授業と違ってみんな須賀の説明に素直に従ってるし、なにより目がキラキラしている。
純粋で無垢で、成長とともに失ってしまうあの目は高校生では絶対にできない。
きっと私にもあんな頃があったはず。
海斗と一緒に城西に入って、進級試験の為に必死で練習して。
楽しかったな。きっとそれは今までで一番満たされていた日々だった。
「じゃ、順番にバタ足の練習な。同時に水の中でまだ目が開けられない人はそれも練習」
「はーい!」
本当にああしてると須賀が先生になったみたい。
須賀は私が同じ城西スイミングスクールに通っていたことを知らない。
だって須賀は昔から泳ぎはズバ抜けていて須賀は特別コース、私たちは一般コースだったから一緒に練習することはなかった。
だけど水深がある別のプールで大人のような泳ぎをする須賀をずっと見ていた。
みんな今と同じように須賀のキレイな泳ぎに釘付けになって、海斗は勝手に須賀のことを目標にしてた。
ひとつしか年齢が変わらないのにすごいって。
いつか同じプールで泳いで、いつか泳ぎを競ってみたいって。
海斗にとって須賀は生まれてはじめての憧れの人であり、追い付きたい相手だった。
そんな須賀の目線はいつだって今じゃなくて、先へ先へと見据えていて。自分の限界を作らずどこまでやれるのか、毎日進化し続ける。
たまに怖くなるよ。
須賀が大きな人になりすぎて。