……ドクン……ドクン。
気づくと私は両手を握りしめていた。
スタートから1分もかからない内に勝負が決まる。
それはとても短いけれど、そこに命をかけて戦う人がいる。
ゆっくりと選手たちがスタート台に登る。
……ドクン、ドクン。
その時、固く握られていた私の手がゆるんだ。
会場の観客は3千人以上。
スタンド席は全て埋まっていて、いくら視力のいい人でも双眼鏡がなければはっきりと顔の認識はできない。
どうかしてる。
気のせいだってわかってる。
でも、今須賀が……。
須賀がこっちを見て笑った気がした。
「よーい」
スタートの合図で選手たちの姿勢が低くなった。
ざわついていた会場が呼吸を止めるように静かになる。
私が息を大きく吐いたのと同時に――パンッ!!とピストルが鳴り響いて、須賀は水の中へ。
ワー!!と一気に盛り上がる観客。
その声すら聞こえないほど、私はずっと須賀のことを目で追っていた。