さっきのは夢だろうか。
夢にしては顔が熱い。夢ならこんなに心臓が鳴り止まないなんてことはない。
ワーと騒がしい会場で私と紗香はなんとか2階席を確保することができた。
「唐突っていうか、なんか須賀らしいね」
「笑いごとじゃないよ」
クラスの男子にはからかわれるし、私をよく思っていなかったはずの女子からは「いつの間にそんな関係になってたの?」なんて質問攻めされちゃうし。
私のポジションといえば、愛嬌がなくて、冷めていて、関わりにくい人っていう位置にいたはず。
教室でもみんなの輪から外れて、それを冷静に分析しちゃうような、そんな立場だったはずなのに……。
太陽みたいにいつも真ん中にいる須賀の隣にいると、少しずつ知らない間にそっちへ寄っていって。
きっと私はもうあの寒い空間には戻れない。
人がいる場所は暖かい。
それも須賀が教えてくれた。
「私、すずと須賀を見てるとなんだか安心するんだよね」
平泳ぎの予選を見ながら、紗香が言う。
「……安心?」
「うん。お互いに余計なことは言わなくても理解し合ってるっていうか、本音をぶつけられる相手って感じで羨ましい。私もそんな男子と出逢いたいな」
案外それは身近にいて、紗香だってもう出逢えているかもしれない。