そんな須賀を横目で見つつ、会場に午前の競技を知らせるアナウンスが流れる。
もうすぐ平泳ぎの予選がはじまるみたいだ。
「すず、そろそろ中に入らないと良い席が取られちゃうかもよ」
山口くんと話終わった紗香が観客の入り口を指さしていた。
……たしかにせっかく来たのに、ぜんぜん見えない席だったら最悪だ。
担任を含めたクラスメイトたちも須賀にひと言ずつ声をかけて、プールがある会場のほうへと移動しはじめる。
「飲み物買っていかないとね。自販機けっこう遠い場所にあったよ」なんて紗香と話ながら私も歩いていると、突然……。
「間宮!」と背中越しで須賀の声が響いた。
声援に負けずに声が通る会場。
呼ばれたのは私なのにこの場にいる全員が振り返っていた。
「な、な、なに?」
視線がこっちに集まってて普通に恥ずかしい。
なにか言い忘れ?でもここまでして言いたいことってある?
そんな戸惑ってる私を無視して、また須賀が叫ぶ。
「俺たぶん今までで一番調子がいいっていうか、こんなにワクワクしてることってあんまり経験がないんだけどさー」
「だ、だからそれがなに?」
大声で自分の自信をアピールしてどうすんの?
普通にロビーには同じ選手だっているし、こんなこと言って予選で敗退しちゃったら笑い者にされるだけ。
それにただでさえ須賀は注目されてるんだから、試合前にあまりバカなことは……。
「――優勝したら俺と付き合って」
……え?
その言葉に周りが一気に盛り上がる。
ま、待って。聞き間違い?
心臓がドキドキうるさくて、壊れそうなぐらい。
「考えといて」
「ちょ、ちょっと……!」
こんな私を置き去りにして、須賀は練習用プールへと戻っていってしまった。