「本当に……本当にごめんなさい」
海斗がいつも座っていた席。動かないのに毎回お母さんが席を直すのは知っている。
お父さんがたまに海斗の部屋に入って、暫く出てこないことも知っている。
私は知っているのに気づいていないふりをしていたんだ。
「私が家の中で海斗の話をできなくさせてた」
ぽろぽろとテーブルに涙が落ちる。
「すず、顔を上げて」
そう言ったのはお父さん。
「あの日、お父さんたちも悪かったんだ。注意をしておきながら話に夢中になって、ちゃんとすずたちのことを見てなかった」
瞳がだんだんと赤くなっていって、お父さんの言葉が詰まる。だけどその視線はまっすぐ私へと向いていた。
「きっと言い出したらキリがないよ。そんなこと家族で言い合っても意味がない」
次に口を開いたのはお母さん。
「すずがずっと責任を感じていたことは知ってた。自分のせいにしてることもね。でもそれを言ったらまた傷つけてしまうんじゃないかってお父さんもお母さんも怖かったの」
「………」
「でも心の中で考えるのは今日でやめましょう。同じ傷痕ならきっと治し方も一緒よ」
〝同じ傷痕なら治し方も一緒〟
それを言われた時、深く刺さっていたトゲのようなものがスッと消えていく感覚がした。
海斗の姿は見えなくても海斗がお父さんとお母さんの子どもであることは変わらないし、私の弟であることも変わらない。
だから4人家族だってことも変わらないんだ。
「今年はムリでも来年はまたあの川に行きたいな」
もううつ向いて、下ばかりみるのは終わり。
「そうだな。来年は行こう。バーベキューセットを持って」
「そうね。またみんなで行きましょう」
未来の約束。
こんなに待ち遠しい気持ちなんて、忘れてた。
早く来年も、再来年も、ずっと早く夏がくればいい。
だって、海斗も私も夏が大好きだから。