「実は私も、すずに言ってないことがあって」

紗香がジュースの入っているコップをぎゅっとした。


「すずは覚えてないと思うけど、私1年の時に先輩の彼氏とできてるって嘘の噂が流れてね。一時期クラスで浮いていたことがあったの」

「………」

「しかも、そういう時に限って体育でチームプレーのバスケ。仲間が投げたボールが顔に当たって鼻血が出ちゃってね」


紗香の話を聞きながら、忘れていた記憶がよみがえる。

そうだ、あの時……。


「みんなクスクス笑っててさ。もうイヤだ死にたい!ってぐらい落ち込んでた。そしたら隣のクラスだったすずが大丈夫?ってハンカチを渡してくれたんだ」


そう。ひとりだけコートの中でうずくまってる子がいて、だれも助けないし、笑ってるからなんでだろうって。

だけどプルプルと震えてる肩を見て、私はすぐに駆け寄った。


「普通のことかもしれないけど、迷わずにみんなと違うことができるってすごいことだよ。だって誰でも周りの目が怖いでしょ?」

「………」

「だから私は2年ですずと同じクラスになって友達になれて本当に嬉しかった。私はすずが大好き」

「紗香……」

「いつも助けられてばかりだけど、たまには弱いすずも見せてね。今度は私も助けたいから」


力強く握られた手が暖かくて、私もそれに応えるように同じ強さで握り返した。