……だれ?

うっすらと目を開けるとコポコポッと空気が私たちを包む。


そこにいたのは須賀。

まるで〝目を開けてちゃんと見て〟と言ってるかのように上を指さす。


水面に映る影はゆらゆらと模様になっていて、
まるで光のカーテンが敷いてあるかのよう。

怖いはずなのに、なぜか懐かしい。


私がずっと避けていた場所。

あの日のことを、あの日の後悔を。
あの日の弟を思い出すのが怖くて。


でも気づいた。

水中は、水は、水泳は、海斗に会える場所。

あの楽しかった日々と笑顔を思い出せる唯一の場所だってこと。


須賀は〝行こう〟と私に手を差し出した。

大きくて、力強くて、優しい手。


何度も思ったんだ。

もしあの時に戻れたら私は絶対に手を伸ばさないって。

だけど今はもう迷わない。

だってこの命は海斗が生かしてくれたものだから。

だから私は生きる。

海斗のぶんまで精一杯、胸を張って生きるんだ。


「……ハア……ハア……」

須賀の手を掴んで、私は水面に戻ってきた。


こんなに長く息を止めていたのは久しぶりだったから、呼吸が苦しい。

隣にいる須賀なんてぜんぜん乱れてもないから、さすがだよ。本当に。