それに気づいたのと同時に須賀の手が壁にタッチする。


「……ハア……間宮タイムは……」

プールから顔を上げた須賀が私を見て止まる。

手の中にあるストップウォッチは時を止めずに今も進んだまま。押したくてもボタンが押せない。

この溢れる涙が拭いても拭いても流れてくる。


「ど、どうした……?」

スタート台の横でしゃがみこむ私。

慌ててプールから出ようとする須賀よりも早く、私の言葉が先に届く。


「須賀、私ね、私ね……」

「………」

「水が怖いの。ずっと怖くて今でも許せないものなの」

はじめて弱さを口にした。


絶対にだれにも言わないって決めてた。

だって可哀想なのは私じゃない。

だから怖いってことを言ってはいけないって思ってた。


須賀の濡れた瞳が私を見つめている。

ゆらゆらと揺れるプールはプラスチックのコースロープが巻取機に戻されていて、ただの大きな湖みたいだ。


「……4年前にね、弟が死んだの。溺れそうになった私を助けて」


あれから何度時間を戻したいと思ったか数えきれない。

私がバカだった。私が浅はかだった。

無知で水の怖さも知らずに遊ぶのに夢中になって。

幼いだけでは済まされないことを私はしてしまった。