真剣な横顔。神経を研ぎ澄ましているピリピリ感。

須賀の体勢が低くなってバシャーン!と水色のしぶきを上げて水の中へ。私はストップウォッチのボタンを押した。

00:01から目まぐるしく時間が刻まれていく。


心配していた右肩は問題なくちゃんと水を掻くことができていて、バシャバシャッと綺麗なフォームで須賀は泳いでいく。


変わらないね。須賀は。

体つきもまだまだ子どもだったスイミングスクールの時から、須賀はちっとも変わらない。


須賀は才能がない、なんて自分で言っていたけど、その泳ぎを見て感動した人がいることを知ってる?

勝手に目標にして、勝手に憧れの人にして。

勝手に隣で泳ぐことを夢見ていた人がいるって知ったら、あんたはなんて言う?


もしかしたらいいライバルになれていたかもしれないよ。

もしかしたら隣じゃなくて前を泳ぐ人になっていたかもしれない。

ううん、もしかしたらじゃなくて絶対。


だってね、海斗も須賀と同じだから。

水泳が大好きで、水泳のことしか頭になくて、
泳がずにはいられない人だったから。 


須賀がもうすぐこっちに帰ってくる。

魚よりも速いスピードで。


ごめんね。どうしたって重ねてしまうよ。

似ているの。似すぎているの。

私は須賀を通してずっとずっと成長した海斗のことを考えていたんだ。