「なにか食べようよ。私りんご飴がいいかなあ」

通路の脇にはずらりと出店が並んでいて、たこ焼きにじゃかバターにポテト。射的に輪投げに金魚すくい。

人混みはあまり得意ではないけど、こういう空間はやっぱり楽しい。


「すずはなにか食べる?花火までまだ時間あるよ」

「うーん。じゃあ……」と私が指をさしたのはわたあめ。

長い木の棒にふわふわのわたあめが付いていて、それをひとつ買った。


「すずがわたあめ買うなんて意外だな。そんな甘いもの食べないよ、とか言いそうじゃん」

「そう?昔からお祭りの時には必ず買うよ。こういう時じゃないと食べられないし」

「ふふ、そうなんだ。まだすずのこといっぱい知らないことがあるね」

りんご飴を美味しそうに食べる紗香の横顔を見ながら、私もわたあめをひと口食べた。


友達だからといって、すべてを知っているわけじゃない。

紗香は私になんでも話してくれるけど、私はなにも言えていない。

心に鍵をかけたつもりになっていたけど、本当は鍵穴なんてきっとどこにもない。

手を伸ばせば簡単に開く扉を、私はただ膝を抱えて見つめていただけ。


「あれ?」

そんなことを考えながら大判焼きの出店に並んでいると、後ろから声が聞こえた。

振り返るとそこにいたのはクラスメイトの男子。