「ボールを投げた3組の男子も相当反省してるらしいし、須賀とも和解したって聞いたよ」

須賀はだれのことも責めない。私のことも。


運が悪かったとかタイミングが悪かったとか簡単な解決方法はいくらでもある。

だけど、ケガをしたのが須賀だから。


あんなに毎日練習して、命懸けで泳いで。それなのにそれがすべて水の泡になってしまったら?

今までのことが無駄だったみたいに、結果が残せなかったら?

私のせい。私のせいなの。


私は須賀の分の飲み物を買って教室に戻った。


「なに?」

須賀がいつも飲んでいるジュースを差し出すと、クラスメイトたちがまたざわめく。

……もういちいち面倒くさいな。

私が須賀に優しくしたらそんなにおかしいわけ?


「飲み物とか頼んでないけど」

「ボタンが押しづらいと思って」

 
するとなぜか須賀は大きなため息をついて、私の手を左手で掴んだ。

そして「ちょっときて」とそのまま引っ張られるように廊下に出た。


「あのさ、その、普通にしてよ」

須賀が言いづらそうにした。


「普通?」

「だから俺に気を遣ったりしなくていいってこと。飲み物とかもパシりじゃないんだし、左手は使えるんだからボタンぐらい押せるよ」


だからって開き直って知らん顔することはできない。

私は冷めているけど、そこまで冷たい人にはなりたくない。

そんな私の納得していない顔を見て、須賀がぽんっと左手で私の頭を叩く。


「ほら、左手は動くんだし大丈夫だって」

「……でも……練習できないじゃん。水泳」

その2週間の遅れがどれほどのリスクになるのか、私には計り知れない。


「そんなに責任感じるなって。間宮のせいじゃねーよ。だから普通にして」

「………」

いっそのこと罵ってくれたらラクなのに。

きっと私はかばわれたことであの日と重ねてる。


だれも私を責めない。だれも私のせいにしない。

だから自分で自分のことを否定し続けるしかなかった。