「あれ、須賀今日は寝ないんだ」
いつもならすぐに寝る体勢になるのに今日はまっすぐに座ったまま。
「寝れないんだよ。バーカ」
肩から肘にかけて固定されてるから、もちろん机に伏せることはできない。
「やべ。古典の教科書ないんだけど」
「だって須賀が教科書出してるところ見たことないし」
「全教科一応入れっぱなしにしてたんだけどな」
なんて、前の席の男子と須賀は話している。
「はい」
いつもならシカトする場面も今日は違う。私は自分の古典の教科書を須賀に渡した。
「……え、見せてくれんの?」
一番驚いていたのは須賀自身。
私は軽く頷いて、距離が空いている自分の机を須賀に近づけた。
私の行動に教室がざわざわとしてるのは気のせいじゃない。
「どうしちゃったの、間宮さん」なんて女子たちがヒソヒソ話をしてるのが聞こえる。
当然だ。
今まで優しさなんて皆無だったし、とくに須賀に親切にするなんて昨日までの自分じゃ考えられない。
でも、だって、須賀のケガは私のせいだから。
それから私は須賀が不便そうにしてたら手を貸して、献身的に須賀を気遣った。
「べつにすずのせいじゃないと思うけど」
自動販売機の前で飲み物を買いにきた紗香が言う。
私をかばってケガをしたことは紗香と野球部員と一部の先生しか知らない。
須賀はボールが当たったと説明するだけで、私のことはみんなに言わなかった。