そのあと須賀は保健室に運ばれた。
ボール遊びをしていた野球部員たちは顧問と担任の先生に鬼のように怒られて、須賀は壁にもたれ掛かるように椅子に座っている。
「もう少し待っててね。今車が出せる先生を探してるから」
須賀はこれから病院へと行く。
「……だ、大丈夫?」
怖くて指先が震える。私はずっと須賀の隣にいた。
あの時、かなりのスピードで投げられた野球ボールはきっと私に向かっていて。それをかばった須賀の右肩にボールは直撃した。
「あー平気平気。頭だったら死んでたかもしれないけど」
顔を歪めていた須賀はそう笑っていたけれど、右腕は上がらないみたいでだらんと下に落ちたまま。
先生たちが慌ただしいのはきっと校内で事故が起きたからという理由だけではない。だって須賀は……。
「なんで私のことなんてかばったの?須賀は全国大会に行くんだよ?ケガしたら怖いって自分で言ってたじゃん」
そう、まるでなにかの前触れみたいにそのことを話していたばかり。
「……私なんてケガしてもべつになんの支障もないんだからさ……」
「私なんて、とか言うな」
珍しく須賀が怖い顔をしていた。
「体が動いたんだよ。なにも考えず泳いでいる時と同じように」
「………」
どうしてみんな大切なものがあるのに、夢があるのに、自分を犠牲にできるの?
自分のことだけを考えてよ。
夢もない。目標もない。
ただなんとなく生きてるだけの私なんて、かばったりしないでよ。