そんなことを言うなんて意外だ。須賀は自分のことを才能の塊ぐらいに思ってると思ってた。


「だからたまに怖くなるんだ。もしケガをして水泳ができなくなったらどうすんのかなって」

「………」

「泳ぐことしか頭にないのにそれがなくなった時の自分が怖い。水泳選手の寿命は短いから泳いでいるより、泳がない時間の方が長いんだ。きっと」


……そんなの人それぞれじゃん。私が見れば須賀はおじいちゃんになっても泳いでそうだよ、なんて、本人には言わないけど。

珍しく須賀と長話しをしてしまった。


須賀はバカだけど、私にないものをたくさん持っていて、その言葉から学ばなければいけないことは多い。

悔しいけど、認めたくはないけど。


――『分かってほしいならちゃんと口にしろよ。自分以外の人間がエスパーだとでも思ってんの?』

本当だね。

言わなくても分かってもらえるだろう、なんてただの甘えと逃げだ。


須賀は才能がないと言う。
泳げなくなった自分が怖いと言う。

弱いということを口にしても許されるの?
こんな私でも。


その時、遊んでいた野球部たちの声が急に大きくなった。


「こんな狭いところでやめようぜ」

「平気だって。俺の豪速球見せてやるよ」

そんな騒がしさとともに、「あぶないっ!!」と背後から風のようなものを感じた。


振り返る暇もなく、私の視界はなぜか真っ暗に。

いや、真っ暗というよりこれは須賀の腕の中。


なにが起きたのか理解できないまま、スルリと須賀の体が地面に落ちていく。


「須賀……?」

そこにあったのは硬い野球ボールと右肩を押さえてうずくまる須賀の姿。


「須賀っ!」

後ろから慌てて野球部員たちが走ってきたけど、私はそれを見る余裕はなくて、だれか、だれかと助けを求めていた。