「……お待たせ」



ちょうどそのとき、両手でおぼんを持った花井くんがお店の奥から出てきた。

おっそいぞー、と軽口を言う店長さんに彼はちらりとも視線をくれないまま、紅茶とイチゴショートをあたしの前のテーブルに置く。



「誰かさんが出しっぱなしだった器具とか片付けてたもんで。それと理恵さんが、『いつまで厨房放ったらかしにしてんだ』ってお怒りだった」

「ゲッ、マジか!!」


花井くんのそのせりふに、店長さんは慌てた様子で、外ドアのプレートを【OPEN】へと直しに行った。

そうして「トーコちゃんごゆっくりー」という言葉を残して、店の奥へと戻ろうとする。



「……っあ、店長さん……!」



そんな彼を、あたしは引きとめた。



「? トーコちゃんなぁに?」

「えと、あたしさっき自己紹介したとき……言いそびれてたこと、ありました」

「ん?」



不思議そうにあたしを見る店長さんの目の前で、テーブルの上のイチゴショートに、1度視線を落としてから。

あたしは、笑顔で店長さんを見据える。



「ただの、佐倉 燈子じゃありません。……花井くんの彼女の、佐倉 燈子です」



あたしのその言葉に、花井くんはめずらしく驚いた顔。

そして店長さんも、一瞬きょとんとした後……顔をくしゃりとさせて、とてもうれしそうに、笑った。