「浜尾さんを味方につけておくと、何かと都合がいいかもしれないな。 

さっきの話じゃないが、手引きを頼むのもいいかもしれない。

近いうちに会わせるよ。

なるほどね、浜尾さんの先祖は主人のためにこんな仕事もしてきたのか。

今なら納得するね」



私は必要以上に話を続けた。

いつなら時間がとれるだろうか、君の都合の良い日時を教えて欲しいと

重ねると、顔を向けてくれたがその顔はまだ曇っていた。



「宗が頼りにしている方に紹介してくださると聞いて、とても嬉しかったわ。

でも……お会いできるかどうか」


「何かあったの」


「暮れに……父が体の不調を訴えたの。極秘で入院して……

でもね、早急な事態ではなかったから、すぐに退院できたけれど」


「そうだったのか。大変だったね」



疲れたようにソファに腰掛けると、珠貴は俯き加減で話を続けた。



「ただ、この前もお話したように、健康不安を抱えていることは否めないの。 

しばらく休養したほうがいいだろうということになって、 

かねてから決まっていたように、常務を務める叔父が代わりに」


「社長交代ってことになるのか」


「いいえ、現時点ではまだ……父の体調をみて判断することになるでしょう。

だけど……それだけではすまなかったの、急なお話で……

年が明けてすぐに申し込みを頂いて……」


「申し込みってなんだよ。もっとわかるように話をしてくれ」



要領を得ない珠貴の話しぶりに苛立ち、必要以上に声を荒げていた。

いや、話の内容は充分に理解していた。

けれど、理不尽な思いが突き上げてきて、感情の制御が利かなくなっていた。



「叔母が……父の妹にあたるの人なの。

専務夫人でもある人で、両親に話を持ちかけたらしいの。 

私の縁談を急いで進めたほうがいいって。 

お相手は申し分ない方ですよ、この前も珠貴さんとご一緒のときに

偶然お会いしましたから、お二人はご縁があるのでしょうって……

おかしいと思ってたの。わざと私に引き合わせるように席を設けて、

それを偶然だなんて、よくもそんな詭弁が言えるものだわ」


「櫻井か……」


「えぇ……」


「どうして連絡してくれなかった。わかってればなんとか」


「せっかくご家族と過ごしていらっしゃるのに、

こんなことをお伝えするのは……」



年末年始、家族と過ごす場所にいる私に厄介ごとを持ち込むのを避けたかった

だろう。

それは珠貴の気遣いだとわかっていながら、もっと踏み込んで相談を求めて

欲しかった。

何より彼女が遠慮して私へ伝えてくれなかったことが残念であり、腹立たし

かった。



「大事なことじゃないか、電話してくれればよかったんだ。 

言ったはずだ、珠貴とのことは何とかしてみせるって。

それとも、俺じゃ頼りにならなかったのか」


「そんなことはないわ。何度も連絡しようと思ったの。でも、できなかった……

今日も言わないつもりだったのよ……

あなたと初めて会うんだもの。楽しい時間を過ごそうと思って」


「……珠貴」


「でもね、早急に話が進むことはないと思うの。

最後は私が決めることですから……

余計なことをお伝えしてしまったわ。ごめんなさいね」



私の腕に身を預けると儚げに笑みをつくり、ゆっくり目を閉じた。