「怒ってる?」


「いや……」


「やっぱり怒ってるのね」


「怒ってないよ。だけど腹がたってる」


「それって、同じことじゃない……」



車に乗っても黙りこくっている私の顔に珠貴が話しかけたてきたのは、

マンション近くになってからだった。

私は何に腹を立てているのか……

自信満々に向かってきた櫻井は、自分が優位であると私に示したかったの

だろう。

彼に強い態度で言い返すのは簡単だったが、それでは珠貴の立場が悪くなる。

できるだけ穏便にと思いながら、向こうの態度に怒りの一辺を見せてしまった。

櫻井の嫌味のある態度と、毅然とした態度を示せなかった自分に腹が立って

いるのだ。



「父に報告なさるならどうぞ」

 

そう言いながら櫻井を見据えた珠貴の方が、よほど毅然としていたではないか。

彼が須藤社長に報告することはないだろう。

私と珠貴のことを父親の耳にいれ、それで自分が有利な立場に立つなど彼の

プライドが許さないはずだ。

この先も、彼は彼なりに、持てる力のすべてを使い珠貴を引き寄せようとする

はずだ。

また私と向き合うことになれば、正面きって向かってくるだろう。

櫻井祐介が珠貴へ向ける想いは、私が思う以上に深いのだと知った夜だった。