その場にいなかったことになっているとは、言葉をそのまま受け取るなら、

私と珠貴は最初からその現場にはいなかったということ。

そこまで考えて思い当たった。

週刊誌をつかみ付箋のページをめくる。

何度も写真と記事を確認したが私と珠貴に関する記述はなく、現場から

私たちの気配は完全に消されていた。

見込んだ相手との約束ですからと、彼は言ってくれた。

照れくさそうな漆原カメラマンの顔がふたたび浮かび、ふふっと思い出し

笑いが出ていた。

珠貴はまだ何かを伝えようとしていた。

今夜にでも会って話を聞きたいものだ。 

彼女からの連絡を待ちながらも、その日の午後はあわただしく過ぎていった。





夜の9時近くの電話だった。

父親である須藤社長から急に接待の席への同行を告げられ、ようやく開放

されたと珠貴の声は疲れていた。


 
『ごめんなさい。なかなか時間が取れなくて。これから会えないかしら』


『迎えに行くよ。どこにいる?』


『いいわ、私が行きます。マンションでいいの? 

今 ”筧” なの。ここからそれほどかからないでしょう』



自分が動いた方が時間のロスがないと言い、珠貴は私の迎えを遠慮した。



『疲れてるだろう。迎えに行くよ。車の中でも話はできる』


『でも、あなただって疲れて……』


『いいから、待ってて』


『宗、だから、あのね……』



珠貴の言葉を最後まで聞かず、電話を切るとすぐに自宅を出た。

疲れた体に無理をさせたくない、そう思えばこそ彼女の遠慮する言葉を聞き

入れなかった。


今夜こそ告げてくれるだろうか。

彼女から言わないのなら、聞き出すしかない。 

もしもそうなら……時間の猶予はあまりないのだから……


フロントガラスから見える街路樹は、秋の装いを見せ始めていた。

やがてくる春のために新芽を抱える樹木に、自分たちの未来を重ねてみる。

春が過ぎて夏を迎えた頃、私と珠貴の環境はどうなっているだろう。

二人ですごす風景があり、私たちが笑顔で見つめる先にもう一人加わっている

としたら……

ふと思い描いた風景に、心がふわりと温かくなった。