心配そうに見守っていた珠貴にも安堵の表情が見られ、彼女からもありがとう

ございますと言葉が出ていた。



「なるほどねぇ。この人だったんですね」


「なにか?」


「このひと月近くずっと追いかけながら、

何かが違うって俺の勘が言うんです。

近衛副社長は誰かを守ってるんじゃないのか、

噂の秘書さんじゃない他の誰かの安全を守りたいために

必死で体を張っているって、ファインダー越しのアンタの顔を見るたびに、

そう思えてならなかった。

秘書さんのことを ”彼女は会社にとって大事な人だ” って言ったでしょう。

あれはアンタの本心だと思った。 

てことは、秘書ではない、近衛宗一郎が本当に大事にしたい人が

どこかに存在するはずだ。 

だから、それが誰なのかを突き止めたくて……」


「それで俺を追いかけたって? ひどいな」


「ふふっ、俺って言うんだ。似合わないって言いたいが似合ってる」



二人だけに通じる笑みは、私たちの間をいっそう近いものにした。

一歩引いて聞いていた珠貴が不機嫌そうに前に出てきた。



「私だけのけ者? ちゃんとわかるように話してくださるかしら」


「ほら、こんなことを言う人なんだ」


「頼もしいじゃないですか。さっきの啖呵も、かなりグッときましたよ」


「もぉ、いいかげんにしてください。二人でなんですか!」



すみませんと言いながらも笑いが止まらない顔で謝る彼は、珠貴へ名刺を差し

出した。

彼女の手元を一緒に覗き込むと、シンプルな名刺にはこう記されていた。


『エス企画  photographer 漆原 琉二』 


あの事件以来、この人に追いかけられていたんだと言うと、珠貴は 

まぁ……と大げさでなく驚いた。



「うるしばらさん……エス企画のエスに何か意味が?」


「カメラを教えてもらった師匠のイニシャルなんです。

エス企画なんてたいそうな名前ですが、 

代表兼カメラマン兼、雑用係です。社員は俺一人ですから」


「フリーランスカメラマンでいらっしゃるのね」



珠貴の言葉に、漆原カメラマンは 「えっ」 と小さく驚き、そして嬉し

そうな顔をした。



「フリーランスカメラマンなんて 久しく言われたことがなかったなぁ……

まっとうに見てもらうのって、なんかいいですね 

今はこんなことやってますが、前は仲間のルポライターと組んで

政治汚職を追っかけてたんですよ」



経済界と政治家の不正を追及していたが圧力がかかり、活躍の場を失ったの

だと悔しそうだった。



「名前が、たまきさんって、さっきそう聞こえたんですが」 


「そうです。須藤珠貴です」



堂々と名乗られ、漆原カメラマンはさきほどよりさらに驚きながら、

もしかしてと聞き返してきた。



「もしかして、須藤孝一郎ってのは」


「父です。よくご存知ですね」



ヒューと口笛を吹き、大げさなリアクションをみせた彼だったが、



「それじゃ、おいそれとおおっぴらにできないわけだ。

えらいことを聞いちまったな」



頭をかきむしる仕草をしたのち、大きく息を吸い込んで吐き出した。