レストランへ連なる道を曲がり、さらに道を進むと駐車スペースが見えてきた。

車を止め、そこから少し歩くことになる。

街を見下ろす高台にあるレストランは数棟の建物から構成されており、

美那子さんの説明によると、




『一棟に一組のお客様のみ案内するんですって。

周りを気にせずゆっくりできると思いますの。

レストハウスの入り口近くに大きな木がありますから、

そこを目指してきてくださいね。 

秘密の場所みたいで、なんだかワクワクするでしょう?』 



と楽しげな声が昨日の電話から聞こえていた。

車を降りて丘に立つと、遠くを望む景色の美しさに珠貴も感心したのか、

朗らかな顔で本当にきれいね、と何度も繰り返している。

交差した道の反対側から数人の声が聞こえてきたが、軽く組む腕を放すことも

なく、私といることを楽しんでくれているようだ。


目印の巨木が目に入り 「向こうだよ」 と声に出し、何気なく木立の奥に

目をやると、木陰からキラリと反射する物体が突き出ていた。

カメラだと判断した瞬間、珠貴の体を抱え覆っていた。

こちらに構えられたレンズから逃れようと、あわてて道を引き返したが、

突然のことに対応できない足が小さな段差につまづき、珠貴の体が大きく揺れ

前のめりになった。

そのとき、無意識に彼女の腹部をかばうように手を添えたのは、私の強い

気持ちの表れだったのかもしれない。



「大丈夫か!」


「どうしたの?」


「カメラマンがいる。引き返そう」


「ちょっと待って。見て、危ない!」



珠貴の悲鳴のような声と見開かれた目に、後ろへ行きかけた気持ちと体を

前方へと向ける。

奥のハウスから出てきた車と、先ほどの声の集団が出くわしたところだった。

その瞬間、私は走り出していた。

驚き、はずみで倒れこんだ一人の老人が、急ブレーキをかけた車に追突しよう

としている。

目の前の危険な光景を防ごうと走る私と同じ行動をとったのか、向こうから

走り寄る男の姿が目に飛び込んできた。

いち早くたどり着いた男が倒れかけた老人の体を支えたものの、抱えた体を

支えきれなくなったのか見る見るうちに傾いていく。

抱えた体ごと転倒する直前、彼らに伸ばした私の腕がかろうじて二人の頭を

支え、敷石への衝突を防いだ。


後続の人の列も足のもつれを起こし、人の波が雪崩を起こしている。

年配の男女数人が三々五々と歩いていたのが、最前列の老人が倒れるように

止まったため、後方の人も転倒に巻き込まれたのだった。

幸い誰一人車との接触はなく、珠貴と私が交互に助け起こすと、しっかりと

立ちあがった人々から口々に礼が告げられ、最後まで倒れていた男性も転倒に

よる打撲だけで傷の類は見られなかった。


老人をかばって下敷きとなった男もゆっくりと上半身をおこしたが、立ち上がる

気配はない。

何度か顔を合わせ、いやおうなく顔見知りとなっていたカメラマンに手を差し

伸べた。

それでも、戸惑った目を向けたまま動こうとしない。

今しがた私たちへ向けられていたカメラは横に放り出され、無残な姿を晒して

いた。 

駆け寄り大丈夫ですかと声をかけ、肩を支えようとした珠貴へ 

「ありがとう」 とためらいがちに言いながら、ようやく私の手につかまり

立ち上がった。

彼が何か言いかけたときだった。