狩野が言っていた内輪の会というのは、彼らの結婚式の数日後親しい友人

だけが集まる、ごく内輪の披露宴のことで、その会の出席をどうしようかと

珠貴は悩んでいた。



「一緒に行って欲しいな。

狩野のヤツ、近衛がパートナーを連れてくるからと、

集まる連中に言ってるらしい。 

俺ひとりだけの出席では、彼らの期待を裏切ることにもなる」


「そうなの? でも、いいのかしら……」



一緒に行こうと再度誘うと、曖昧に頷いたもののまだ気持ちがくすぶって

いるようだ。

私たちは公にできない間柄だというのが、彼女の気持ちを迷わせていたの

だろう。



「会場はシャンタンだから、入れる人数も限られている。 

知っているとおり、あの場所で交わされる会話がもれることはないよ。

それに、君が来てくれなきゃ羽田さんが不審に思うだろう? 

違う相手を連れて行ってみろ、その場で俺の信用はなくなるよ」


「ふっ……わかったわ、ご一緒します」



安心させるように抱きしめたが、腕の中で大きなため息が聞こえ、ため息を

かき消すように唇をふさぎながら、帯でふっくらと包まれた腰を着付けが

乱れるとわかっていながら強く引寄せた。

こんな風に隠れるように会う時間しか持てないことに苛立ちを覚え、

何とかしたいと思いながらも、いまだ解決策を見出せない自分の不甲斐なさと

珠貴へ申し訳なさがないまぜになり、乱暴な手になっていた。

我々のことを狩野や平岡が親身になって後押ししてくれたところで、

家の問題の解決には至らない。

誰か両家に近い人物で珠貴を認めてくれる人がいれば、心強いのではないかと

考えてはっと思い至った。



「さっきの続きだけど、ウチに長く勤めている律儀な人のこと」


「そうだった、どこまでお聞きしたかしら。

近衛のお家の歴史をご存知の方だったわね」


「代々仕えてくれる人たちでね、家の裏の事情も引継がれているんだろう。 

一族の内情など、俺よりよっぽど詳しいよ」



歳はお袋と同じくらいで、両親も浜尾さんなしでは家のことは進まないのだと

話を繋げていった。



「浜尾さんとおっしゃる方、女の方でしょう? 

代々使えていらっしゃるということは、 

お嬢さまがお母さまのお仕事の跡を継がれるの?」


「そういうわけでもないよ。息子が継いだり娘だったり、その代で違うが、 

浜尾さんの家族がずっと役目を継いでくれている」



昔は結婚もせず独身のまま勤め上げ、やめる際に身内の者を推挙し引退して

いたこと。 

そんな彼らに曽祖父が結婚することを勧め、今に至っていること。

彼らの仕事の内容ほか、浜尾さん家系の歴史を語ると珠貴は興味深げに

聞き入り、先ほどの苦悩の表情は消え、いつもの好奇心旺盛な顔になってきた。