「親父と一緒に永瀬家に呼ばれている。業界の主だった顔がそろうそうだ。 

家に招いて見せたいものがあるらしい。どうせ自慢だろうがね」


「新年早々ホームパーティなの? 永瀬さんのお宅のみなさまも大変だわ。

大掛かりなパーティでしょうから 

お正月のお休みもなかったでしょうね」  



珠貴のいう ”みなさま” とは 永瀬家に従事する者たちのことで、

新年早々招く客人のために、彼らは休みもないのかと気の毒がっているの

だった。

それには私も、まったく同意見だった。

主人の見栄のために年末年始もなく働き、年明けに申し訳程度に休暇を

与えられたところで、使用人たちの不満は残ることだろう。

外部に見栄を張りたがる主人は、内部の者たちへ無理をしくことがあるようだ。

その証拠に、永瀬家に行くたびに出迎えてくれる顔が違っていた。



「その点近衛家は違うわね。

跡取りのお坊ちゃまも、ちゃーんとわかっていらっしゃるみたいですから」



肌を重ねたあとの気安さからか珠貴の口は冗談も滑らかで、私の反撃を

予測しながら、わざと嫌味な言葉を選んで投げてくる。

こんな他愛のない遊びも楽しいもので、形だけ逃げの態勢になっている

彼女の体を力ずくで押さえ込み抱え込んだ。
 


「ひいじいさん曰く、

”近衛家の人間は正月は働くな” との号令だったそうだ」


「まぁ、素敵なおじいさまね。一族の方だけでなく、近衛のおうちに関わる

すべての方がお休みできるようにってことでしょう? さすがだわ」


「あぁ、ひいじいさんは面白い人だったらしい。

家の中の古臭い組織を立て直したのも、そのじいさんだったらしい。

ウチに長く勤めてくれている人の話だ」 


「長くって、いくらなんでも、ひいおじいさまの代から

ご存知ってことはないわね」


「ははっ、まさか。近衛の家に代々仕えてくれている人で、

律儀な人がいるんだよ」



面白そうな話ね、と珠貴は身を乗り出してきたが、私が時計を一瞥するのが

見えたのか、 




「そのお話、着替えてからお聞きしたいわ。時間がかかるから先に失礼します」 



それだけ言うと、ベッドサイドのガウンを手繰り寄せ羽織り、シャワールーム

へと足早に消えた。

二人で過ごせる時間が残り少ないと悟ったようで、身支度を整えてすぐに

次の行動へ移れるようにとの段取りだろう。

甘い時を過ごしたあとも気分に溺れることなく、身軽に動き出す珠貴の

切り替えの早さに、私が選んだ相手に間違いはなかったと笑みがでていた。