「でも、気に入ってくれたみたいですね。アレ」


「そうらしい。あのツンとすました顔が緩んでたぞ」


「厳しい話をしながら、チラッと目を動かして見るところなんか、

やっぱり女の人だなって思いましたよ」



真琴が常に持ち歩くファイルケースの留め金の先に、小さな石がはめ込まれた

チャームが揺れるようになったのは彼女の誕生日の翌日からだった。

ありがとうございます、と控えめに私の目に触れる位置に持ち上げ、喜びを

見せてくれた顔が可愛く見えたものだ。



「グリーンダイヤだそうですね」


「らしいな……」


「ダイヤを贈るとは、さすが先輩」


「グリーン系の石を探してもらったら、そうなったんだよ」 



痛い出費でしたねと同情した口ぶりに、まったくだと顔をゆがめて見せた。



「そういえば、僕らからの土産は見てもらえましたか?」


「まだだよ。浜尾君が休暇を取るから、この二週間俺がどれだけ働かされたか、

おまえも知ってるだろう。彼女に会うヒマなんかあるもんか」


「あはは……そうでしたね」



平岡と蒔絵さんが休暇を兼ねた出張先で見つけた物で、私と珠貴への土産だと

箱を渡されたが、一人で開けないでくださいとの注釈つきだった。

いったい何を買ってきてくれたのか聞いても 「見ればわかります」と平岡は

思わせぶりな返事をくり返すだけで、かなりの大きさの土産の箱は、いまだ

私の部屋に置かれたままになっていた。



「だいたいなぁ、なんで俺に渡すんだよ。

蒔絵さんだって珠貴に毎日会うんだ、直接あっちに渡せばいいだろうが。

まさか、俺たちには二人でひとつの土産ってことか?」


「いやぁ、そうじゃないですけど。そうともいえるかもしれませんが……」


「どっちなんだよ!」


「とにかく見てもらえればわかります。今日から浜尾さんもいませんから、 

今夜はゆっくりできるじゃないですか」


「ふんっ、さっきの打ち合わせを聞いてなかったのか? 

今夜まで接待が入ってるんだよ」


「それはそれは、お気の毒に……」



頭をかきながらも 「じゃぁ頑張ってください」 と人ごとの顔をしている

平岡に拳を挙げる素振りをすると、逃げるように部屋を出て行った。

忙しいのは平岡のせいではないとわかってはいるが、イラつく感情をむき出し

にすることで鬱憤をはらすしかなかった。

振り上げた拳を力なくおろし、ポケットに手を突っ込むと窓の外に体を向けた。

梅雨独特の切れることのない雨が降り注いでいる。

明日も雨だと天気予報は告げていたが、真琴と浜尾さんが向かう先はどんな

天気だろうか。

鉛色の空を眺めながら、北海道は晴れているだろうかと、母と娘の旅立ちの

心配が頭をよぎった。