ほどなく着信音があり、メールではなく電話がかかってきた。



『こちらからお電話を差し上げたのに……

いいえ、こんな時間にごめんなさい……まぁ、研修で箱根にいらっしゃるの……

えぇ……ちょっとお聞きしたいことが……

浜尾さんがいつもお使いのお店を教えていただきたいの。

マカロンが有名だとか。 

チョコレートのお礼に、お友達にマカロンを贈ろうと思って。

ホワイトデーに、えぇ……』



珠貴の会話は不可解だった。

会社の女の子たちへ返す品を頼んだはずだが、そんなことは一言も口にせず、

自分が友人のために用意したいから、浜尾君が知っている店を教えて欲しいと

聞いている。 

なぜこんな問いかけになるのだろう。

それに、浜尾君に対し珠貴がこんな話し方をするとは、いったいいつ彼女と親

しくなったのか。

頭をかしげる私に余裕の笑みを浮かべて見せながら、話はまだ続いている。



『えぇ、わかります……ありがとうございます。えっ?……

えぇ それでしたらドレスコードは……』



話の内容が変わったようだ。

聞かれたくない話なのか、珠貴は私に背を向け少しばかり声を潜めているが、

話しぶりは楽しそうだ。



『まぁ、ステキ……格式ばったことは必要ないと思います。いつものように……

えぇ、14日は楽しんでいらしてね。ではまた……』



女同士の電話というのは、どうしてこんなに長くなるものなのか。

用件だけでなく必ず他の話題がでて、それからまた話が派生して、さらに話題

が広がっていく。

後半の会話は、おそらく浜尾君のプライベートな話であったに違いない。

電話を終えた珠貴に 「14日がどうしたんだ?」 と聞いてみたが 

「なんでもないの。女同士の話よ」 と、さらりとかわされてしまった。



「いまの電話、あれで浜尾君がわかったとは思えないが」


「大丈夫、彼女にはわかったはずよ。心配しないで。明日のお昼か……

そうね、夕方までには副社長室のあなたあてに、

綺麗にラッピングされたお品が届くと思うわ」


「本当にそう思うの?」


「えぇ、もちろんよ」



胸をそらし、見ててご覧なさいと言うように自信満々の顔をした。

そこまで言われては珠貴の言うことを信じるしかない。

とりあえず……私の悩みは解決したようだ。