一瞬お袋の顔が浮かんだが即打ち消した。

あの人に頼んだら、張り切りすぎて大事になりそうだ。

では、他には……紫子か。

うーん、長い付き合いとはいえ、弟の妻に頼むのは情けない。

静夏がいてくれれば助かったが、アイツは先月留学先に帰って行った。

もっとも、この三人からもチョコレートが届いており、紫子からは 

「珠貴さんから豪華なチョコレートをいただくでしょうけれど、一応恒例です

から」 と冷やかしながら渡されたのだった。

そうだ、お袋と紫子と静夏にも返さなきゃいけないのか。

例年、時期を見計らって 「こちらでご用意いたしましょうか」 と浜尾君が

申し出てくれるため、忘れずにすんでいたのだが。

やはり、頼むのは珠貴しかいないということになる。

恥だの意地だのと言っている場合ではなさそうだ。


はぁ……

何度目かのため息をつき、平岡が気の毒そうに私の顔を見ながら 

「ではのちほど」 と立ち上がった。

彼が退出したのを見届けると、急いで珠貴に電話をかけた。

滅多なことでは勤務中に電話などしない私からの着信に、ずいぶん驚いた様子

だった。



『忙しいところすまない。今話せるかな』


『えぇ、どうしたの?』


『頼みがあるんだ。今夜会えないだろうか』


『待ってね……』



誰かにスケジュールの確認をしているのか会話が聞こえていたが、ほどなく

返事が来た。



『急ぐお話でしょう? 9時を過ぎるけど、それでもよければ』


『助かるよ』



私のマンションで落ち合う約束をして、手短に電話を終えた。

忘れていたとはいえ、謝るだけでは格好がつかない。

その上頼み事をしようというのだ。

珠貴に会うために、詫びを兼ねたプレゼントでも携えてと思うものの、何を

用意したら良いのか見当がつかないのだから、まったく情けないものだ。

「そろそろ準備をお願いします」 と平岡がふたたび顔を出し、会議の予定を

告げる。 

わかったと返事をしたときには、プレゼントのことなど頭からなくなっていた。